INTERVIEW
07
村越 としや さん・河井 菜摘 さん
写真家(村越さん)・修復専門家(河井さん)
アナログの時間が積み重なる場所

村越 としや Toshiya Murakoshi
故郷の福島県を主な被写体に選び、人の持つ潜在的な記憶と自身の記憶、そして土地の記憶をなぞるように継続的な撮影を行う。日本写真協会賞新人賞(2011年)、さがみはら写真新人奨励賞(2015年)受賞。東京国立近代美術館、サンフランシスコ近代美術館、福島県立博物館、相模原市に作品が収蔵されている。
河井 菜摘 Natsumi Kawai
鳥取、京都、東京の3拠点で生活をし漆と金継ぎと「共直し」を主軸とした修復専門家。陶磁器、漆器、竹製品、木製品など日常使いのうつわから古美術品まで1000点以上の修復を行う。修理の仕事の他に各拠点では漆と金継ぎの教室を開講し、漆作家としても活動。
写真という仕事
——村越さんの写真に対するお考えを教えてください
村越としやさん(以下 村越さん)
よく理由を聞かれるんですが、「デジタルかアナログか」という二択の問題ではないんですよね。
写真を始めた頃は、フィルムからデジタルへと移り変わる、ちょうど境目の時代でした。選ぼうと思えば選べた。でも、そのとき惹かれたのは、新しい技術ではなく、それ以前の写真が持っていた時間の重なり方でした。
デジタルは合理的ですし、仕事では助けられることも多い。でも、表現として考えると、デジタルはテクノロジーで、アナログは化学なんです。
光が物質に触れて、反応して、そこに痕跡が残る。その仕組みそのものが、写真だと思っているところがあります。

——AI画像が急速に増えていますが、その変化はどう見ていますか。
村越さん
だからこそ、逆にアナログの存在感が強くなっている気がします。
AIの画像は、どこか「誰のものでもない」感じがする。でもフィルムには、撮った人の癖や迷い、躊躇が全部残る。
アナログでやっている人は、写真集を大事にしますよね。データではなく、重さのある「もの」として写真と付き合っているからだと思います。
写真集が並ぶ風景
——実際、かなりの数の写真集をお持ちですね。
村越さん
別の階にも同じサイズのマルゲリータさんの本棚があって、そこも全部写真集で埋まっています。
写真集は、一度見て終わりではなくて、何年か経ってからふと手に取ると、まったく違う見え方をする。
そうやって時間を行き来するような感覚があって、気づくと増えているんです。
本棚に並んでいる姿そのものが、ひとつの風景になっている。
写真が紙に定着しているという事実が、空間の中で可視化されている感じがします。

傷を景色に変える仕事
——河井さんは金継ぎ、漆の修復をされています。
河井菜摘さん(以下 河井さん)
はい。割れてしまった器を、元に戻すというよりも、割れた時間を含めて受け止める仕事だと思っています。漆で継いで、金や銀、あるいは黒漆などで仕上げることで、傷は隠すものではなく、「景色」になる。
修復家としての仕事が中心で、教室も開いています。京都・鳥取・東京の三拠点で活動していて、もう11年になりますね。

——移動の多い生活ですね。
河井さん
そうですね。でも、2週間ごとに場所を移すリズムが、逆に生活を整えてくれています。
修理の依頼も、そのリズムの中で受け取る。どこにいても、作業の時間は同じように流れています。
時間をかけるという選択
——修復には、かなり時間がかかるそうですね。
河井さん
作業時間としては、1点あたり10時間前後ですが、漆は乾く時間が必要なので、全体では半年ほどお預かりします。一気に仕上げることはできないんです。
同時に30点~40点ほどを少しずつ進めて、乾かして、また次の工程へ進む。その繰り返しです。
——教室も、短期間で完結するものではありません。
河井さん
はい。早く終わることよりも、「手を動かしている時間」そのものを大切にしています。
生徒さんからは、「日常から一度離れて、目の前のことだけに集中できる時間が貴重だ」と言われることが多いですね。
器を直しているようで、実は自分の時間を取り戻しているのかもしれません。

グリッドが支える静けさ
——本棚について、使ってみて感じたことはありますか。
村越さん
大きなサイズの方が、むしろ安定していると感じました。
可動棚ではなく、グリッドが固定されていることで、その均一なグリッドが全体を支配し静かに落ち着く。本のサイズはバラバラなのに、離れて見ると、ひとつの面として整って見えるんです。
河井さん
2階に本を集めると床の負担が心配だったので、1階にも設置しました。
教室や来客もあるので、「見せる収納」であることは大切でした。生活の中にあって、主張しすぎないけれど、確かに存在している。その距離感がちょうどいいですね。

手仕事が重なる場所
——写真と金継ぎ。分野は違いますが、どこか共通しているものを感じます。
村越さん
どちらも、時間をかけることを前提にしていますよね。
河井さん
急がないこと、手を動かしながら考えること。
そういう姿勢が、この空間にも自然に染み込んでいる気がします。
——その暮らしの中で、本棚を使っていただいていることを、とても嬉しく思います。
村越さん
空間としても、使い方としても、自然に馴染んでいます。
河井さん
生活の一部として、静かに機能してくれています。

インタビューを行った空間には、河井さんの教室でも使われている、古木を再利用した武骨な机が据えられていました。その机は、本棚に設けられた開口部へと差し込まれるように構成され、空間の中で強い存在感を放っています。
並んだお二人の写真と、その背景にある机や本棚の構成は、お二人の仕事を、それぞれ異なる立場や形で静かに支えているように感じられました。




