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壁一面の本棚を壁面に設置する場合、そこにある窓を塞いでしまうこともあります。ここではその様な場合に窓を塞がずに、あるいは生かして本棚の配置、加工を工夫することにより窓を活用した状態で本棚を設置された事例をご紹介いたします。
開口部を設けて窓そのものを生かしたもの、あるいは低いサイズの本棚を窓の下端に揃えたもの、更には窓そのものはまるで意識していないかの様に低いロータイプの本棚をさりげなく窓下に設置したもの等、様々な工夫がここではなされています。
マルゲリータの壁一面の本棚は背板がありません。従ってそのまま窓面を塞ぐ形で設置したとしても基本的にその窓を塞ぐ形にはなりません。その様な事実に基づきながら様々な形で窓を生かす工夫がここではなされています。
窓を塞ぐ家具
室内の窓を家具で塞ぐことは、様々な問題を引き起こす可能性があります。以下、その問題点です。
自然光と換気
最も大きいのは窓を塞ぐことで、室内に入る自然光が制限される点です。自然光は室内環境を明るくし、気分を向上させる効果があります。窓を塞いでしまうと、部屋が暗くなり、生活や作業に影響を与える事になります。
次に通風、換気の制限です。窓は通気を提供し、室内の新鮮な空気の循環を助けます。窓を塞ぐことで、室内の換気が悪化し、湿度や空気の流れに支障が生じます。
これは建築基準法で定められている採光面積、換気面積の必要数量とあながち無関係ではありません。法律では長年の経験値を元にある程度の幅を持ちながらそこに必要最低限の生活で必要な数値を出しています。従ってその必要最低限の基準をクリアして建てられた建物のその開口面積を閉じてしまうのは自ずと良くない方向に向かってしまうのは自明です。
窓からの眺め
また、これは建築基準法には定められてはいませんが、窓からの景観は心地よい環境を創り出す要素の一つであるとも言えます。窓を塞ぐことで、外の風景を楽しむ機会は激減し、その結果、部屋が閉鎖的に感じられてしまいます。また窓を塞いでしまうと、部屋に閉塞感が漂い、そこに住んでいる人が不快に感じる可能性無くはありません。開かれた空間や視覚的なつながりは、実は快適な居住環境を作り出すのに必要な要素です。
窓を塞ぐ本棚
窓を本棚で塞ぐことも一般的には避けるべきですが、特定の状況下で行われる場合、いくつかの問題が生じる可能性があります。
以下、窓を本棚で塞ぐ場合の主な問題点です。
直射日光
窓に近い位置に本棚を配置することで、本や家具に直射日光が当たりやすくなります。時間とともに、これが本や家具に悪影響を与える可能性もあります。また本棚で窓を塞ぐ場合、直射日光によってその背表紙や小口が極端に劣化してしまうことは避けられません。
採光と換気
家具を置く場合と同様ですが、本棚で窓を塞ぐことで、室内に入る自然光は減少します。これにより、部屋が暗くなり、視覚的な快適さは損なわれます。また窓は通気を提供し、新鮮な空気の循環を助け歌め窓を本棚で塞ぐことで、室内の換気が悪くなり、湿度や空気の品質の問題が発生します。
同様に窓からの景観は、室内の環境を豊かにし、気分を高揚させる要素の一つです。窓を塞ぐと、外を見る機会が制限され、室内に閉塞感が生じます。
また、窓は非常時の脱出経路としては有効です。窓を本棚で塞ぐことで火災やその他の緊急事態時に安全な脱出が妨げられる可能性があります。窓を本棚で塞ぐ場合は、これらの問題を最小限に抑えるように注意が必要です。
本棚を置いても室内を有効に使える
室内で本棚が邪魔にならないようにするためには、次の様な点が考えられます。これらの考え方の組み合わせで効果的な室内の使い方を探る事が出来ます。
邪魔になりやすい家具は、複数機能を持つデザインを採用することが必要です。たとえば、収納付きのテーブルやベッドの下の引き出し、折りたたみ可能な家具などがそれに該当します。
また壁を活用して収納スペースを作ることで、床面積を有効活用できます。ウォールシェルフやウォールユニットなど、壁に設置する収納家具を使って本や小物を収納できます。必要な時にだけ使用する家具は、折りたたみ可能なものが必然的に選ばれます。
例えば、折りたたみ可能なデスクや椅子は、使わないときにはスペースを取らずに済みます。室内をシンプルかつミニマルなデザインにすることで、過剰な物がなくなり、必要最小限の家具やデコレーションを取り入れることで、室内が整理された印象になります。
また天井近くまで利用する垂直方向の収納を活用することで、床面積を有効に使えます。この点が壁一面の本棚の最も効果が発揮されるてんで、天井から床までの高い収納スペースを得ることで収納する場所を自由に選んだり、そもそものその絶対的なキャパシティが本や小物を整理する際に大いに役立ちます。
窓を生かす本棚の使い方
高さの異なる本棚を組み合わせる
予め窓の位置を捉え、その窓の下端に本棚の天板が来る様にロータイプの本棚を置きます。そのロータイプの本棚と隣り合い、窓には干渉しない位置に天井までの壁一面の本棚を置きます。ロータイプの本棚を挟むように両側に高い本棚を設置することにより窓を生かした本棚の一群が完成します。しかもこの場合、窓の上部の壁部分も残した形になるので本棚全体としてはL字型あるいはコの字型の形状に収束し自然な形で窓の輪郭を残すことになります。
窓の形が自然に残るように本棚を設置
窓の下端に合わせる、あるいは少し距離を持つ形で置き家具の様にロータイプの本棚をそこに置く。そういった自然な形の家具配置が実は室内には大変心地よく写ります。本棚はあくまでその室内の主役ではなく、書籍を収める棚です。その点が重要です。
窓に合わせた位置で本棚に開口部を設ける
マルゲリータの壁一面の本棚は本棚の中に開口部を開けることが可能です。ここで一番問題になるのは開口部上部の荷重です。特にそこに書籍が充填された場合の荷重はひとコマあたり約30kgにもなります。その荷重が複数連なった際の目方を全てそこで受けなければなりません。開口部付きの本棚はその開口部の上部に桁を配してそのロードを受け持ちます。均一に並んだセルの一部を開口部にする事により、そこにある窓を生かすと言うよりも本棚の中に窓を作ると言うこれまでにない形が得られます。
本棚を切り取りL字型に残す
壁一面の本棚をオーダー加工して窓の部分を切り取るように一つの本棚を加工します。前述の「本棚に開口部を設けるスタイル」とは異なり切り取られた結果はL字型に残りその部分が窓を矩形に囲います。
本棚のコマ内になにも置かない
マルゲリータの本棚には背板がありません。通常は壁を背にして配置するためのものですが背板が無いためその向こう側はそのまま抜けて見えます。すなわちその向こう側に窓があれば更にその窓を通した新たな世界がそのセルの中に展開します。そのセルに物を置けば窓の向こうに展開する世界を通して、あるいは窓そのものをバックライトとしてセル内に小宇宙が展開されます。このような使い方はこれまでの本棚ではなされてきませんでした。
窓を塞がない本棚の配置事例
低い本棚と高い本棚を組み合わせる
File444 室内と窓の形に合わせる
ロータイプの本棚と4列に加工した天井までの本棚を並べてお使いいただいてます。リビングダイニングの大きな一面には腰窓があり、ここに隣接して冷媒管を囲む出っ張りがあるため複雑な形になっていますが本棚は梁下に、ロータイプ本棚は窓面の下に据えリビングボードとして上手にご活用いただいてます。
File400 窓を塞がずに本棚を組み合わせる
極めてシンプルに窓を塞ぐとことなくそれを生かした状態で壁面収納を作られた事例のご紹介です。向かって左側の縦長の本棚は壁一面の本棚をベースにコマの幅を少し広げた状態で、更に2列にして壁から窓枠までの幅に合わせて製作したものです。窓下に伸びる2段の横長のものはロータイプの本棚を既製品のまま加工なしにご利用いただいています。
File612 2種類の本棚を組み合わせる
TVドラマのセットとして使われたものなので実際の生活とは乖離したものがありますが、オフィスに於いて窓を避けた形での資料棚として一つの解答となるべくレイアウトです。
File696 2台のカウンター付き本棚を組み合わせる
カウンター付き本棚は6列タイプと2列タイプで製作し、2列タイプの方の右側の本棚を無くしてカウンターだけを伸長、その1列割愛された箇所に小窓が来る構成になっています。この本棚によって作られた彫りの深い開口部を挟んで本棚は二分され、リビングのこの壁面が持っていたイメージも一新しています。
本棚をL字型に切り取る
File318 窓を避けた形の本棚
壁一面の本棚をオーダー加工して窓の部分を切り取るように一つの本棚を加工したものです。本棚に開口部を設けるスタイルとは異なり切り取られた結果はL字型に残りその部分が窓を矩形に囲います。
File572 本棚の上部を窓に合わせて切り取る
壁一面の本棚の上部左半分を室内高窓の位置に合わせて切り取られています。更にロータイプの本棚と合わせ段状にリズミカルな構成をされています。
File712 窓を生かした本棚の構成
リビングの小窓を避ける形で壁一面の本棚はL字型に切り取られています。一見奥行きの深い本棚の上に浅い本棚が置かれているように見えますが、実際は一体での加工です。小窓の下端に合わせるように配置された天板はそのまま奥行きが入れ替わる箇所まで連続し、そこにもちょっとした物が置けるスペースを作り出しています。
特に窓を意識しないで自然な形でその開口部を残す
File533 窓を生かした自然な本棚の配置
窓下にロータイプの本棚を置くことで窓としての機能を十分に生かし、また就寝の際に目線の高さと本棚が自然と取り合う高さになる、極めて自然な開口部とその本棚の扱い。
File590 リビングから続くお子様の学習室に
直交する壁面と小窓の間にさりげなく設けられた3列タイプの本棚です。小窓の下には電子ピアノのキーボードが置かれた軽快なレイアウトです。
本棚のセルに何も置かない
File753 本棚の向こう側に窓を置く
大きな窓がある面はその窓下に天板が来る様にロータイプの本棚が置かれています。一方ハイルーフの方の本棚はその窓の位置に合わせて本棚の背面を加工、窓の下枠の見込み分15mmを切り取る形で背面を加工しハイルーフから入る陽光が本棚に遮られない様な工夫をされています。結果この横一列だけが水平窓をそのまま受け継ぎながら開口部として存在しているかの印象を与えます。
考察
窓の下に低い本棚、両側に高い本棚を置く
窓の配置を考慮し、ロータイプの本棚を窓の下に設置することで窓の輪郭を生かした本棚のデザインが形成出来ます。このロータイプの本棚の両側には高い本棚を配置し、窓を挟むように配置することで、L字型またはコの字型の形状を作り出します。この配置により、窓の上部の壁も残り、全体としては自然な形状の本棚が構成されます。
窓の位置は気にしないで自然な形でその開口部を残す
窓の位置に合わせたり、あるいは少し距離をとって配置することで、家具のような自然な形でロータイプの本棚を配置します。この自然な置き方は室内において心地よさが生まれます。本棚は単なる収納棚ではなく、室内の家具として、書籍を収める棚として存在し、室内全体を落ち着いた雰囲気にします。
本棚の中に開口部を設ける
マルゲリータの壁一面の本棚は、開口部を本体に取り入れることが可能です。その際、特に注視するべきは開口部上部の荷重です。書籍が充填された場合、一つのコマあたり約30kgの荷重になります。この荷重が複数のセルに連なった際、その重さを両側のセルが負担する形になります。
開口部が付いた本棚では、開口部の上部に桁を配置してその荷重を両側に分散させます。これにより、均一に配置されたセルの一部が開口部になることで、窓を生かすというよりも本棚の中に窓を組み込むという新しい形状が実現されます。
本棚の中の一部を切り取りL字型に残す
壁一面の本棚をカスタマイズし、窓の部分を切り抜くオーダー加工を施します。このスタイルでは、切り取られた本棚の形状はL字型となり、その一部が窓を矩形に囲みます。前述する「本棚に開口部を設けるスタイル」とは異なり切りあくまでも切り取られた残りの形になります。
本棚内のコマを空けておく
マルゲリータの本棚は背板がない独自の形状を取ります。通常、本棚は壁に寄りかかって配置されることが多いですが、背板がないことでその向こう側が見え、もし窓があれば新しい景色や光景がそのまま本棚を通して視認できます。
また、そのセルに物を配置することで、窓の向こうに広がる世界を背景にしたり、窓そのものをバックライトとして使ってセル内に独自の宇宙を演出することができます。このようなアプローチはこれまでにないものであり、本棚の新しい可能性を切り開いています。