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コンクリート打ち放しとコンクリートやりっ放し
打ち放しコンクリートの仕上げ面には、大きく2つのタイプがあります。1つ目は、型枠を脱型した状態をそのまま仕上がり面とする「打ち放しコンクリート」です。もう1つは、コンクリート面を下地とし、その上に異なる仕上げ材を施すものです。
「打ち放しコンクリート」は、脱型した時点で完成形となるため、設計段階から型枠の配置、精度、フォームタイの位置などに細心の注意が求められます。また、施工段階でもコンクリートの打設、打ち継ぎ、型枠の取り扱いに大変な配慮が必要です。言わば一発勝負の工程であり、打設から約1ヶ月後に型枠を外し、その仕上がりを初めて確認できます。しかし、全てが理想通りに進むとは限らず、非常に難易度の高い作業です。うまく仕上がった打ち放しコンクリートは、美しく、他に代えがたい魅力を持っています。
一方、「コンクリートやりっ放し」は、仕上げが施されるか、天井などに隠れて見えなくなるコンクリート面のことを指します。この場合、型枠の配置やフォームタイの位置を気にする必要がなく、工事の効率が重視されます。形状が図面通りであればよく、表面の仕上がりは重要ではありません。また、施工中には建物の基準墨などもそのままコンクリート面に書き込まれ、最終的には隠蔽されるため、これも特に問題視されることはありません。
やりっ放しコンクリートの魅力
ここまではそのやりっ放しコンクリートは如何にも粗悪で細心の注意を払われた打ち放しコンクリートと比較すると雑な印象を与えてしまいますがそこには一つ違う魅力があります。それは「飾らない」姿です。打ち放しコンクリートは前述の様にそれを綺麗に見せるためある意味必要以上の努力の跡がそこにはあります。構造躯体なのかそうでないのかも一見では分からないほどに綺麗に仕上がれば仕上がるほどにそれはぼやけていきます。建物が構造躯体から成立しているという事がややもすると忘れてしまうほどに綺麗に仕上がると一層その存在は薄れていきます。
素材
一般的に設計側、所謂建築家と呼ばれている人達、が好むのは素材系と言われています。素材系とは木材、鉄、ガラス、コンクリート、石材です。この中で純粋な素材、言わば天然素材と呼ばれるものは石材、木材だけです。それ以外は工業製品です。
逆に嫌われているがやむを得ず使っているのが化学系の素材です。ビニールクロス、化粧板等です。嫌われている理由は単純で「何かに模している」からです。織物調ビニールクロス、石目調化粧板など、枚挙に暇がありません。その様な何かにを模したものを嫌う傾向があります。それでも使っているのは価格的な面に過ぎません。
しかし例えば煉瓦タイル、これは煉瓦を模したタイルです。そもそも煉瓦は積むもので貼るものではありません。更に言えば煉瓦は西洋建築ではテラコッタと呼ばれる左官装飾が施される下地です。言わば構造体であってヨーロッパで煉瓦積みを建物外壁の仕上げとして使っているのはイギリスだけで他では殆ど見かけません。
コンクリート
コンクリートも本来は構造体であり下地材です。それを仕上げとして用いた点は大いに賞賛されるべきですが、例えが前述の煉瓦を模した煉瓦タイルとある意味似ています。構造体としてのコンクリートの存在は構造力学的なミニマルな姿が本来の姿であってそこに美しさがあると言えます。
マルゲリータの本棚
マルゲリータの本棚は単純な嵌合式の構造体を四方のブレース板で水平方向の応力に備えただけのもので極めて単純な構成から成り立ちます。装飾的な要素を一切排除している、と言うよりもそもそも必要最小限のエレメントで組み立てているためそこに飾る要素はありません。
前述の様に素材系と言われるコンクリートと木材は親和性があると思はれています。その意味においては打ち放しコンクリートを背後に控えた壁一面本棚の存在はストイックの域を超えた馴染みのあるとらわれ方になるのかも知れません。
打ち放しコンクリートが背面に控えた壁一面の本棚 実例
File663 スケルトンリフォームされた室内に
南向きのバルコニーからは美しい公園が広がり、静寂な雰囲気漂う室内のリノベーションが行われました。元々存在した内装の仕切りは撤去され、壁面と天井の仕上げが取り払われ、構造体が露わにされました。施工中に見つかった建物基準となる「返り墨」と呼ばれる墨の跡は、当時の建築の熱気を感じさせ、その場に荒々しさと力強さが蘇ってきます。
写真:本棚 SLF 壁一面の本棚 奥行250mm(天板特注)
File589 間仕切り壁面収納をダークグレイに塗装する
人の手が入っていないそのコンクリート面は、その分、自然な印象を与えます。ちなみに、この天井の表面仕上げは以前は隠れていた部分でありながら、コンクリートの美しい施工が不思議なほど魅力的です。型枠の配置や表面の質感も、これまでの仕上げと比べても遜色のない精巧な出来栄えです。
写真:本棚 SLF 壁一面の本棚 奥行350mm(お客様にて塗装)
File546 WEB制作会社の制作拠点に
既存の天井を撤去し、コンクリートの打ち放し面と対照的な床にはパネル状の自然な木の板が使用され、この対比が心地よい雰囲気を醸し出しています。オフィス内には広がりのある観葉植物が開口部一杯に配置され、空間全体を清々しい空気で覆います。
File461 螺旋階段のある地下室に
地下室のコンクリート打ち放しの室内に、壁一面の本棚 奥行250mmが設置されました。円弧を描く螺旋階段が壁に存在し、視覚的な変化をもたらしています。正面に連結された2台の本棚が、その壁一面を贅沢に本の収納スペースとして活用しています。
写真:本棚 SLF 壁一面の本棚 奥行250mm
File430 天井を顕しにしたおしゃれなオフィスリノベーション
オフィスのリノベーションにおいて、天井を撤去して躯体を露わにするデザインが多く見受けられます。これは主にデザインや設計に従事するクリエイティブな分野の企業によるものが多いようです。天井が取り払われることで、開放感や広がりを生み出し、クリエイティブな活動に適した環境を醸し出します。
写真:本棚 SLF 壁一面の本棚 奥行350mm
File653 静かなカオスの中で
打ち放しコンクリートの荒々しい環境に、バイク、革ジャン、メンテナンスツール、初期のアップルコンピューター、そして書籍が混在する、まるでカオスのような空間。しかし、連続する画像からは、これらのアイテムがしっかりと存在感を主張している様子が伝わってきます。
File638 Divka(ディウカ)のオフィスに
グレーのコンクリート打ち放しと木目調の本棚が対照的な印象を醸し出すモノトーン系の室内。内装自体は最初から打ち放しの仕上げを意識しており、整った配置の配管などが見受けられます。そのため、打ち放しとはいえ荒々しさは抑えられ、上品な雰囲気が漂っていますが、本棚と黒を基調とした家具の配置がそれを打ち消し、より力強い印象を与えています。
写真:壁面本棚 SLF カウンター付き本棚
File795 打ち放しコンクリートに囲まれた男の部屋
この空間は、中央に広がる空間を有する一方で、その視点の位置は日本的な特徴を持っているだけでなく、周囲の沈んだ打ち放しコンクリートの表層と組み合わさったトライバルラグ絨毯がエキゾチックでありながらも燻銀的な雰囲気を醸し出しています。
考察
打ち放しのコンクリートの表面は、型枠のディテールに細心の注意が払われています。一方で、隠蔽される箇所のコンクリートは構造的な形状が一致していれば、表面の仕上がりにはあまり注意が払われないことがあります。しかし、コンクリートが持つ荒々しい力強さは、本来整った表面よりも素朴に作り上げられた部分にその本質的な美しさが宿っていると言えます。
マルゲリータの本棚は構造体はシナ合板で構成の仕方も特に飾っているところはないつもりです。即ちミニマルな構築の中に美しさを得ようと試行錯誤を繰り返してきたものです。その意味でも力強いコンクリート、冒頭で表現したコンクリートやりっ放し、と言う粗々強い室内に対峙できる存在になれればと考えます。
実例に関連するプロダクト
またスクリーンのサイズに合わせた開口を設けたい場合や、ご希望のサイズ・形状で収納家具をご希望の場合は、プランやご希望の内容などをお問い合わせいただけましたら図面とお見積もりを作成いたします。詳細はカット・オーダー加工ページをご覧ください。