INTERVIEW
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井上 薫 さん
DJ / 音楽プロデューサー
レコードが整理されたら、
生活スタイルまで変わった

井上 薫 Kaoru Inoue
DJ / 音楽プロデューサー。1967年、神奈川県出身。DJ活動と並行して、94年より「Chari Chari」名義で音楽制作をスタート。2020年に18年ぶりのアルバム『WE HEAR THE LAST DECADES DREAMING』をリリース。
我が家のマルゲリータは、仕事部屋のレコードや CDを収納する棚、移動式DJブース、1階の書庫の本棚です。
導入したのは2017年7月、新築のタイミングでした。およそ30年DJを続けているので、レコードとCDが大量にあって。それらをすべてしまえる壁面収納を探したところ、マルゲリータが一番シンプルで機能美にあふれ、魅力的に感じたのです。五反田のショールームで、家の図面と付き合わせて細かい寸法を相談できたのもとてもよかった。
その後、新築工事の現場に来てくださり、ほぼオーダーメイドな要望にも柔軟に対応していただきました。

レコード棚は1マス70枚入るので、5000枚以上になりますね。それが整然と並んでいる様子は美しいなと思います。平日は音楽を制作するか聴くかなので、ほとんど仕事部屋にいます。音楽を聴くことは、曲づくりのアレンジの参考になるし、耳の快楽という点でも重要。だから聴きたいレコードやCDをすっと取り出して聴ける環境に勝るものはありません。以前の家では段ボールに入れたまま積んであって、必要な一枚を探し出すのが困難でした。集めている物が整理されていないと、不思議と気持ちまで停滞する。でもきちんと収納されているだけで、やる気がみなぎるというか、以前にも増して音楽制作に精が出るようになりました。大袈裟かもしれませんが、生活サイクルにまで影響が及んだといっても過言ではないですね。

生活サイクルといてば、以前、村上春樹さんの『職業としての小説家』という本を読んだのですが、その本に書かれていた仕事の仕方、日々の暮らし方がとても印象できでした。毎朝5時に起き、コーヒーを飲んだら正午まで5〜6時間執筆し、午後に1時間走って、あとは料理をしたり読書をしたり、ビールを飲みながら好きなジャズのレコードを聴いてゆったりと過ごす。就寝は22時。仕事とプライベートのバランス、そして健康維持は、徹底された生活サイクルによって保たれるのだと腑に落ちました。僕自身もそのような理想の生活スタイルへと近づけています。朝早く起き、ヨガと瞑想をし、仕事は午前中にできるだけ済ませる。午後は音楽を聴いたり本を読んだり。村上さんのおっしゃるとおりで、それが最もクリエイティブに適した時間軸という感じがします。
そのような日々を過ごすためには、部屋の居心地が肝心だし、居心地よくするためには整理整頓がいちばんでしょう。ただし、断捨離やミニマリストまで行ってしまうと、それはそれで情緒がないなとも思うのです。僕は自称“レコードジャンキー”ですが、それは自分の生き方の証明でもあります。10代で音楽にどっぷりハマり、なけなしの小遣いでレコードを買って聴く日々を過ごし、大人になってからは中古レコード店でDJプレイできるような新しい一枚を探し出して・・・という一連の流れがある。だからすべてをデータ化して、レコードそのものはバッサリと捨てるというわけにはいかなかった。いま振り返っても捨てなくてよかったなと思います。

レコードは「レコード」という特別なモノとしての魅力をいまも変わらず放っています。巷のDJスタイルは十数年前からCDJ(CDでDJをする)が主流となり、現在ではデータを収録したUSBを会場に持参し、あとはヘッドホンがあればDJできるようになりました。ところが“先祖返り”というか、レコードでDJを行う20代がちらほら現れ始めているのです。時間がきたら裏返さないといけないし、音質向上のためデバイスや機材にこだわらないといけないという、その「面倒ならでは」が楽しいらしいです。聞けば、海外の著名なDJがアナログ盤で回しているのがとにかく格好良くて「あれを目指したい」のだという。なんだか僕らの少年時代によくいた「ジミ・ヘンドリックスに憧れてギタリストを目指した男の子」みたいだなと。昔は楽器に対して抱いた憧れがいまはレコードになっている、というのが非常に面白いですね。
僕も、レコードを整理して処分すると棚のマスが少し空くので、懲りずに新しいレコードを買っています。「掘る」と言うのですが、未だ人知れず埋もれているものを中古レコード店やリサイクルショップで探し出すのが、いまも格別の楽しみで。もちろん、マルゲリータの棚からはみ出すほどは買わない!と決めていますけれどね(笑)。
