都内のマンションにお住いのお客様です。ご主人の書斎兼仕事部屋の壁面に「Shelf 壁一面の本棚 奥行250mm」を2台連結してお使いいただいています。
マルゲリータでは原則として塗装はお請けしていないため、本件の塗装はお客様が自らされたものです。しかもこのお客様は塗装の専門でないにも関わらずその仕上がりは大変美しいものになっています。
マルゲリータの本棚はシナランバーコア合板で出来ています。縦材、横材に相互に切込みを入れてそれを嵌合する形で組み上げます。その本棚を塗装する場合の手段は二通りあります。
- 部材の段階で塗装する
これは塗料の歩留まりもよく、また素材全般に目が届くため塗り残しも少なく、また塗装条件が同一のため塗装面としては綺麗に仕上がります。しかし交互に嵌合させる箇所に関してはそこに塗料が残るとうまく嵌められなくなり、しかもそれが数カ所連続すると少しの塗膜の引っ掛かりが作用して嵌合が極めて困難になります。それを防ぐ意味で自然塗料系の塗膜の薄いものをお使いいただきかつ嵌合させる切り欠き部分の内側(組み合わせると見えなくなる箇所)への塗料の付着は出来るだけ避ける様にしていただく必要があります。 - 組み立てた後に塗装する
この場合は前述の様な嵌合に支障を来たすことはありませんが塗装部位が全てコマ内部となるため刷毛でそれを全て塗っていくのは想像以上に大変な作業です。また横板の半分以上は上向き(天井面)の塗装になるためその体勢を保つのも一苦労です。塗料の歩留まりも当然悪くなります。更にもう一点、入隅部分に付いた塗料が硬化するとそこが仮止めの様な形になり将来的に解体する際にそれが難しくなるケースも生じます。その様なネガティブな要素の多い「組み立て後の塗装」ですが全体が徐々に見えてくる達成感はそうした苦労をも払拭させるものがあります。
シナ合板は一般木材と比べてヤニが出ないのでシラー処理をしないで塗装をすることが出来ます。また自然塗料であればその木目を表面に残しながら仕上げる事が出来ます。
この様な過程を経て木目を出しながらグレーに塗装されたこの本棚には全体的に深みが生じ、ファイルボックスも黒いものが使われている事も重なり、書籍の背表紙とウィスキーのラベルだけが浮き上がる光景が非日常的な気配さえ感じます。またこの部屋の入口から見ると、窓面から入る自然光は逆光になり、本棚の木口面だけを照らした様子はハイライト的に見える均一なグリッドが黒い塊を分割し心地よいスケール感を演出します。またナチュラル色のフローリング、白い壁面と天井面と対峙するかのようなこの黒い一面はその背面の白い壁にも黒い影を落とし、この黒系で塗装された本棚の存在が壁の一面に置かれるだけで部屋の印象を180°違うものにしていると言えます。
チンダル現象
壁面の色が濃いと、直射日光が差し込んだ際に光の筋が空中に浮かび上がり、昔の西部劇に出てくる埃っぽいバーや納屋の小窓から差し込む光など、特に欧米の古い映画で見られるような懐かしくも最近ではあまり見かけない情景が思い起こされます。この部屋には空中に漂う粒子はほとんどありませんが、暗い壁と窓から射す薄明かりが空中の微粒子を照射してチンダル現象を引き起こし、独特な雰囲気を演出します。この現象は意図的に作り出すことは難しいですが、どこか懐古的で絵になる美しい光景となっています。
壁面に拡がる格子状のラインは細く、均一に繰り返されているため、書籍に統一感がなくても、そのグリッドが混沌とした集まりを美しい壁面に変えます。さらに、逆光で見ると本棚の木口部分が均質に光を反射し、書籍はまるで存在しないかの様な、ダーク系に塗装された本棚を背景に、均一に光るグリッドが前に出たような印象を与えます。
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