都内の高層マンションにお住いのお客様です。そのリビングに「Shelf デスク付き本棚」をオーダー加工した階段状の壁面収納を設置いただきました。
室内が広いと、壁面収納を一部に設置した際、意外と存在感が強く感じられることがあります。それを解消するためにここでは階段状に加工されています。これにより、ボリュームが視覚的に軽減され、部屋全体のバランスが取れ、圧迫感を感じさせないデザインになっています。階段状の収納は、空間に動きや変化を加え、視線を引きつける要素として機能し、室内に個性を与える効果もあります。広い空間を最大限に活用しつつ、洗練された雰囲気を保つことができています。
本棚の一部や段状に加工された棚板には、どこか日本を感じさせるオブジェクトが並んでいます。五重塔の木組み模型やフィギュア、フランス語で書かれた日本画の絵本、下垂植物など、はっきりとした日本らしさではなくても、日本を感じさせる外国人の視点が表れています。階段状の本棚は、それらを自然に受け入れ、全体としてエキゾチックな雰囲気に仕上がっています。
階段箪笥
「階段箪笥」とは江戸時代の初め、関西を中心とした狭い町屋に登場したのが最初で、その階段状の形状からその様に呼ばれるようになった箪笥のことです。箱箪笥とも呼ばれています。階段であり収納家具でもあったわけでややもするとデッドスペースになりがちな階段の下の空間を有効利用して引き出しや棚を取り付けたものです。階段の下部分をそのグリッドに沿って細かく分け、引き出しを中心とした収納を設けてその空間を隅まで隈なく使う事を目的としています。
階段下に直接造りつけるものや、移動ができるものも見られます。中でも移動式の階段箪笥は、階段として人が上がり下りするものなので堅牢で重厚な造作が施され、さらにその補強のため角には精巧な金具がはめ込まれているものもあり、随所に箪笥職人のこだわりと心意気が偲ばれます。また、当時は金庫の役目を担うものもあり、知っている人にしか引き出しが開けられない「からくり仕掛け」が組み込まれた面白いものまであります。この極めて日本的な空間の有効利用、精緻な職人技術が詰め込まれた階段箪笥はいつの間にかそのシルエットが上方文化の一つの形として日本人の気持ちの中に植え付けられていったかに見えます。このような道具としての機能性と造形美が、現代のインテリアとしても重宝されています。
本件の壁面収納棚は階段箪笥ではありません。階段として上ることも出来ないし、そもそも上階はありません。しかし階段箪笥として長く日本人に親しまれてきたそのシルエットのメタファーは、広い部屋の隅にありながらも圧迫感を与えずどこか優美で控えめな空気を醸し出してくれます。
リビング全体はL字型の平面形をしています。そのL字の両端に、壁面収納が配置されたスペースと大型テレビとソファが置かれたスペースがあります。階段箪笥のようなデザインの壁面収納は、ワークデスクを伴い、一角を効果的に利用しています。この配置により、空間が効率的に活用され、インテリアのバランスが取れた心地よい空間が生まれています。リビングの両エリアがそれぞれ異なる役割を持ちながら、全体として統一感を保っています。
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