長くベルリンに特派員として駐在されていてこの度帰国されたお客様です。
新居の二間続きのリビングの一角に「Shelf 壁一面の本棚 奥行350mm」を設置、書斎としてお使いいただいてます。
帰国に際して持ち帰った東欧の独特なデザインの家具とお気に入りのステーショナリーを配した書斎は小窓から入る陽光に対しどこか情緒漂う空間になっています。
部屋の壁の大きさに合わせて、縦7コマ×横6コマの本棚を設置していただきました。この本棚には、分厚い本や辞書、雑誌やファイルなどが、ほとんど隙間なくぎっしりと詰め込まれています。梁の下に本棚が納まるように最上段をカットしたため、そこに5つのごく薄い収納スペースが形作られています。左側の上から3段は、エアコンの配管を収めるためにカットしてあります。このスペースには、グラフィカルな本が背景として飾られ、クマのぬいぐるみと穴あけパンチが収まっています。
窓からの光を受けた室内
この書斎は、小窓から差し込む陽光が決定的な役割を果たしています。光は窓を通してグレーがかったフローリングに反射し、室内に柔らかく広がります。本棚のグリッド状の棚板がハイライトとなり、和室の障子のようなビジュアル効果を生み出します。棚板の内側には影ができ、明るい部分と影の部分がリズミカルに繰り返されます。この水平と垂直のラインの重なりが、書斎にふさわしい落ち着いた明るさを演出しています。
また、本件のように書籍が大量に収納されている場合、視界に入る際に明るい色の棚板によるグリッド線が強調され、背表紙の集合が一種の色面として認識されます。これにより、色彩が氾濫することなく、落ち着いた雰囲気が保たれます。
家具と空間のバランス
書斎には、帰国に際して持ち帰った東欧デザインの家具が配されており、異国の情緒が漂う空間となっています。ロッキングチェア、マガジンラックの脚、コンソールテーブルの脚、そしてフロアスタンドは、それぞれが木漏れ日の入る林に生える木々のようにほっそりとした存在感を持ち、互いを引き立て合っています。この部屋のアクセントとなっている濃色の窓枠は、これらの家具とボリューム感だけでなく色合いも揃っているため、あらかじめテーマを設定して誂えたかのように調和しています。
家具と、窓からの光を受けてできる家具の影が、密度の高い本棚を背景に美しいバランスを作り上げています。さらに、カランダッシュの名作鉛筆削りも小さながらも豊饒な空間を演出しています。このように、異国の雰囲気を持つ家具と自然光が織りなす調和が、書斎に独特の魅力を加えています。
本棚の美意識と機能性を兼ね備えた陳列方法
いくつかのセルには、貴重で美しい本が、その表紙を展示するように配置されています。これは、書店で雑誌や本を棚に立て、背表紙ではなく表紙を見せる「面陳列」、略して「メンチン」と呼ばれる陳列方法です。背表紙だけが見える状態も美しいものですが、特に美しい表紙の本を選び、それを飾ることで、持ち主の美意識を表現できます。
さらに、飾った本の背後にあまり見せたくないものを隠すことも可能です。これにより、さりげなく見せない収納を実現し、持ち主のエスプリを光らせるおしゃれなテクニックとなります。この方法は、視覚的な美しさと実用性を兼ね備えた、本棚の陳列方法として効果的です。
カランダッシュ(CARAN D’ACHE)の鉛筆削り。削り面全体の角度が鋭角ではないという日本では見かけない点もありますが、デザインもスイスのカランダッシュらしさがありながら重量があるので削っている時にも動かずに削りりやすい逸品です。
本棚への収納
奥行き350mmの本棚の中に、小型の本なら2段にして、さらに奥にも2列に並べて、縦横に、自由に、本が収納されています。本棚全体の剛性を確保するためのブレース材の置かれたセルにも、そのサイズに見合ったコンテンツが収まっています。「本棚の中の棚」を用いずに書籍のサイズで小さな本を手前に、大きな本を後ろに、また最下段には重くて大きなファイルなどがフローリングに直接置かれています。このあたりの武骨なまでの美しさがここでは光ります。
雑誌「太陽」の背表紙が並ぶ3つのセルは、同じデザインの背表紙が繰り返され、整然とした安定感と落ち着きを演出しています。この本棚の強みを遺憾無く示しており、視覚的な美しさが際立っています。
また、日本の文庫本が収納されており、一冊一冊は小ぶりですが、背表紙が並ぶことで独特のボリューム感を生み出しています。特に、何巻にもわたるシリーズの背表紙は、タイトルの色と文字が揃うことで横に広がるビジュアル効果を持ち、コンテンツの充実を力強く主張しています。このように、本棚の陳列が持つ美しさと機能性が融合し、書斎全体の雰囲気を一層引き立てています。
隠れ家としての書斎
二間続きのリビングですが、可動間仕切りを閉じると、隠れ家のようなプライベート空間が作り出されます。専用のエアコンと小さな窓、暖かい色のラグマットに置かれたロッキングチェア、手元を照らすフロアスタンドが配置されており、非常に居心地の良い環境です。ロッキングチェアに身を委ねると、右側の壁一面に夥しい書籍が収納された本棚が目に入ります。視線を上げれば、小さな窓から外の景色が見えます。この空間で過ごす一人だけの時間は、重ねてきた知的体験の証として、本の集積が深い充足感と新たな興味の芽生えをもたらす源となります。このように、書斎は個人的な思索とリラクゼーションの場として機能し、プライベートな隠れ家としての価値を提供します。
カーテンの抽象的なボタニカル柄は、この書斎に、東欧の深い森の中にひっそりとたたずむ隠れ家のような、独特の雰囲気をかもし出しています。
この事例と関連するプロダクト
壁面を天井まで最大限に活用できる壁一面の本棚。専用の収納ボックスもある組み立て式。
SERIES09
書斎・ワークスペース
このシリーズではマルゲリータの家具を使用した書斎の考え方、レイアウトなどを実例をもとに紹介しています
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