漆と金継ぎを主軸とした修復家として活動されている河井菜摘さんと、写真家の村越としやさん、それぞれのアトリエに「Shelf 開口部のある本棚」および「Shelf 壁一面の本棚 奥行250」を設置いただいてます。
写真家の村越さんのアトリエである暗室に設置された本棚をご紹介いたします。ダークグレーの壁面に囲まれた部屋には引き伸ばし機、イーゼル、現像用のバット等の暗室用品が所狭しと並び、壁一面の本棚には写真集に交じり、フイルムケースや印画紙の箱、カメラに暗室用品も収納され、フイルムでの作品制作の流れが伝わってきます。
写真家のアトリエは暗室です。現像作業の間は闇の中に沈んでいる光景ですが、今回は暗室内の本棚を紹介する写真を撮影するために、遮光用のシートが貼られた窓を開いてアトリエに光を入れていただきました。光を受けて、壁一面に広がる圧倒的な本棚の姿が現れました。本棚は、暗室という視覚と触覚の比重が通常とは異なるバランスの空間に設置されて、不思議な存在感を放っています。光と闇、二次元と三次元、一瞬と永遠を切り取る写真家の五感を、本棚が暗闇の中から静かに支えているかのようです。
ダークグレーのクロスが張りめぐらされた壁に囲まれた部屋には、引き伸ばし機、イーゼル、現像用のバットや現像液等の、フイルム写真をプリントする暗室で使う備品が所狭しと並べられています。その部屋の大きな壁一面に、床から天井までを覆い尽くすような形で「Shelf 壁一面の本棚 奥行250mm」縦7コマ×横7コマが置かれています。ダークブラウンのフローリング材が張られた床から天井の近くまで、本棚は壁を覆い尽くすようにして設置されています。天井と本棚の縦板との間にわずかな空隙がありますが、そこにはボール紙製の箱に入った印画紙などが挿し込まれていて収納スペースとして活用されています。縦板の先端と天井との間には隙間がほとんどないため、万が一、前のめりの方向へ倒れる力が働いたとしても棚板が天井にかかって転倒を防止します。
本棚には夥しい数の写真集が収められ、また、立った姿勢で視線の届く位置になる上から2段目の棚には何台かのカメラが置かれています。本棚の左側には冷蔵庫が置かれています。現像後のフィルムを保管する目的で、あるいは長時間をかけてコントラストの低い画像を得るという低温静止現像の作業工程を行うためのものです。
さまざまなサイズの写真集が本棚いっぱいに収納されています。奥行250mmの本棚は一般的な本棚の標準サイズで、最上段と最下段以外のセルの内部有効寸法は幅325×奥行250×高さ335mmあり、美術書や図鑑、図録、写真集、画集など、A4よりもわずかに大きな書籍でも収納可能な寸法です。一番下の段は棚板がない構造なので有効高が他の段よりも少し高い400mmあります。ここには背の高いコンテンツをフローリングに直接置いて収納されています。
収納された写真集はその奥行きも高さも揃っていないために、背表紙が本棚からはみ出して凹凸を作り、時にその上部に大きな余白を作りつつ、壁一面に大きく広がっています。同時に直接コンテンツを置く最下段の床と6枚の横板とが作る水平線がそれらを全て受けとめて、7層に積み重なって並んでいます。縦板は水平に積み上げられたボリュームを均等な短いスパンで区切っています。こうして大量の不揃いなサイズの写真集はグリッド状に整理されて、秩序を帯びてコレクションされている状態へと昇華されているのです。
写真集や画集などは、クリエイターの強い個性を原動力にその真摯な美意識を反映して制作されるために、時に普通であることに反発するかのような作品となることもあります。書籍のサイズが標準的な形ではなく変形されていたり背表紙に激しい色使いを採用してデザインしたりと、書棚に整理整頓されることに対するカウンターのパワーが感じとられる作品になることもあります。この本棚でもそうしたアーティスティックなエネルギーがパワフルな光景を作り出しているのですが、一方でこの本棚の前面にはアンビバレントな鎮静化された様相も現れています。
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壁面を天井まで最大限に活用できる壁一面の本棚。専用の収納ボックスもある組み立て式。
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